
将来の不安、「小さな一歩」が未来のトビラを開ける
髙橋さんが東京セカンドキャリア塾で出会う55歳以上の方々は、将来の働き方や、定年後に友達ができるかなど、不安を抱えている人が多いといいます。しかし、そんな方々も卒業から2~3年後に再会すると、明るい表情に変わっているのだとか。
それは「『小さな一歩』を歩まれたから」と髙橋さんは言います。
定年後の進路に悩んでいた元新聞記者の方は、セミナー講師から「新聞記者が行政書士の資格を取るのは面白いし向いているのでは?」とのアドバイスを受け、帰りに本屋で行政書士の対策本を買いました。数カ月間勉強して試験に合格し、今では自分の事務所を持っています。
また、65歳で再雇用が終わった方は、ハローワークで見つけた職業訓練校の「庭園施工管理科」に飛び込みました。今まで手掛けたことのない分野で、新たな楽しみを見つけています。
髙橋さんはさらに、老後の3大リスク「3K」について解説しました。「お金・仕事のK、健康のK、孤独のKの」うち、対策が後回しになりがちなのが「孤独のK」、人間関係づくりです。

髙橋さんが勧めるのは、勉強会やカルチャーセンターなど、新しいグループに飛び込むこと。そこでは会社と違ってヨコのつながりが中心となり、多様な価値観を持つ人と出会えます。好奇心や柔軟性を忘れずに、スポーツや音楽などの「共通項」を見つけることで、親しくなるきっかけを作れるかもしれません。

髙橋さんは67歳。製薬会社に34年間勤務し、営業、人事、人材育成などさまざまな仕事を経験した後、57歳で会社都合により早期退職。何の準備もなく、当初は住宅ローンもある中で右往左往。保育園を経営している会社への再就職など、試行錯誤を重ねました。
その中で経験した自身の「しくじり」をテレビやラジオなどで話すようになり、セミナーなどでの講演活動も開始します。『定年1年目の教科書』『定年後自分らしく働く41の方法』などの著書も出版し、現在はセカンドキャリアコンサルタント、株式会社セカンドエール代表取締役として、シニア世代の支援に取り組んでいます。
「スナック」から広がる新しい世界
「同じ人とばかりいると情報が限られてしまいます。新しい人と会うことで、こんな生き方があるんだ、こんな仕事の仕方があるんだと気づかされます」
木下紫乃さんが運営する「スナックひきだし」は、当初「45歳以上でモヤモヤを抱えている人」限定のスナックとして始まりました。セミナーやキャリア講座を開いても人が集まらなかったという木下さんですが、友人の店を借りてスナックを月2回だけ開催すると、すぐに人気に。30代の若い人たちからも「行きたい」というリクエストが寄せられるようになり、現在は自分のお店で週に1日、昼間のスナックのママとして活動しています。
来店するのは、55歳で早期退職しアパレル会社を経営する70代の方、大企業に務めている50代の方など、多様な人々です。障がい者施設に勤務する60代の方は、「ここに来ると名前を呼んでもらえるから来るんだよね」と話しているそうです。名前を呼ぶ、呼ばれることの大切さを実感すると、木下さんは言います。
素晴らしい会社にお勤めでありながら、やりたいことが見つからないという方も。木下さんは、「やりたいことが見つからないなら、やりたくないことを全部やめていけばやりたいことだけが残るよ」と話しをしたそうです。
「きっかけはなんでもいい。スナックに行きましょうということではなく、なんでもいいから新しいところに一歩を踏み出してみることが、人生を変えていきます」

木下紫乃さんは56歳。1991年に社会人デビューし、「飽き性」だという性格から、5社の転職を経験しました。30代半ばからプロボノ活動を通じて人とのつながりを広げるも、人生の行き詰まりを感じ、45歳で大学院に進学。若い人と交流する中で「上の世代はつまらない」と思われている現実に気づき、「人はいつからでもどこからでも挑戦できる」と、50歳のとき、自分で選ぶ働き方を支援する株式会社HIKIDASHIを設立しました。現在は研修の講師のほか、スナックで人と人をつなぐ「ママ」としても活動しています。また、著書『会社を辞めて幸せな人が辞める前に考えていること』の出版や、社会福祉士の資格取得にも挑戦。同世代やさまざまな年齢層の人々に、メッセージを伝え続けています。
二人の「しくじり」から学ぶ
クロストークでは、髙橋さんと木下さんが、それぞれの失敗談や取得した資格などについて話しました。
早期退職後、保育園を経営する会社に再就職した髙橋さん。保育士20人の採用を任され、結果的に採用は成功したものの、社長をはじめ幹部との関係性が悪化してしまいました。「長らく勤めた会社でのやり方を踏襲して実行してしまったのですが、別の環境には別の文化があるということをそこで学びました」と、当時を振り返ります。
友人に相談すると「あなたが悪い」と指摘され、翌日、涙ながらに謝罪。その後は関係も改善し、「80歳まで働いてください」と言われるまでになりました。
一方、木下さんは社会福祉士の資格を取得。現在介護施設は人材不足と言われており、資格を持っている人はもちろん、そうでない人もお手伝いできることがあると、木下さんは話します。
福祉事業所で活躍するボランティアの方の中には、70代で「世の中に何かお返ししたい」と活動されている方もいるそうです。ビジネスの世界で培った事務スキルなどを活かせる場も少なくないため、まずは行ってみて、自分のスキルでどう貢献できるかを伝えてみることが大切だとアドバイスしました。
人生を変える4つのキーワード
後半では、髙橋さんと木下さんが「はじめの一歩の背中を押す4つのキーワード」を紹介しました。
① 「小さな一歩が世界を広げてくれる」
髙橋さんは、 セミナー参加や名刺交換といった小さな一歩が講演依頼や出版につながった経験から、「今はどうなるかわからなくても、必ずその一歩は何かにつながっていきます」と話します。
② 「強みで勝負からネタで勝負へ」
木下さんは、「強みがないんです」と相談されることが多いのだとか。しかし、「強みはなくてもネタ(経験)はあります。うまくいかなかった経験でさえ、その人の個性。無理やり強みを見つけなくても、次の一歩を進むことはできます」と話しました。
③ 「"できない、もう遅い、今さら"を捨てる」
髙橋さんは、63歳で保育士の資格を取った自身の経験から、「60歳から80歳までは、若い頃以上に自由時間があります。今さら遅いということはありません」と語りました。
④ 「合わなかったら、次へ!」
木下さんは、頑張って一歩を踏み出してみても、「ここは違う!」と感じたら辞めてしまってもいいと提案します。「合わないところで我慢し続けるのはもったいない。『やり散らかしましょう』と言っているくらいです」と、メッセージを伝えました。
